音楽を作る上で欠かせない表現に音の強弱があります。
fは強く、pは弱く。その音だけを強く弾いたり、だんだん強弱を変化させたり…いろんな記号が楽譜に書かれています。
代表する強弱記号を下記に示します。
音の強弱の誤解
導入期から、徐々に触れていく音の強弱。
まずここで、「fは強くや大きく、pは弱くや小さく」とだけ伝えると、かなり困った問題に遭遇します。
ピアノは、強く・大きくたたくものでもないし、力任せに弾くものではありません。
乱暴な音になったり、攻撃的・破壊的な音は、もはや音楽の音ではなく衝撃音になりかねません。
手や体に力を入れたり、力んだり、息を止めたり・・脱力出来ない原因をこの時代に作ってしまいます。
「fは強く・大きく」の言葉は誤解をまねくので、記号の意味としては強く・大きくと伝えますが、弾く時にはその言葉は禁句だと思っています。
では、どのように伝えるかと言うと
「fは強く・大きく」ではなく
- 重く ⇨イメージとして:重たいリュックを背負ってのしのしと歩いてみよう
- 深く ⇨イメージとして:海の深~い所を探検しよう
- 分厚く ⇨イメージとして:分厚い扉を開いてみよう
- 幅広く ⇨イメージとして:大きな河の流れに一緒に乗っかろう
など、その曲に合ったたとえ話を入れながら、「らくに弾く」ことを伝えます。無理矢理な力を加えることではないのです。
「pは弱くや小さく」も同じで、
- 軽い(1年と6年では体重が違う) ⇨イメージとして:雲の上を歩いてみよう
- 小さい(1年と6年では身長が違う) ⇨イメージとして:イッツアスモールワールドの子どもたちのように
- 浅い ⇨イメージとして:シュノーケルをつけて海の下をのぞこう
- 透き通る ⇨イメージとして:妖精やや天使のようにエアリーな感じを想像
など、これも曲のイメージに合うように伝え、「鍵盤を沈めること」が重要で、決して上っ面を触るのではないことを言い
ます。
なぜか、引き算方式や減らすと言う考え方をする人が多いです。
そのように考えると、音が抜けたり、か細く響かず人の耳に届けることができません。
これも「らくに弾く」ことを伝えながら、鍵盤のタッチの仕方や鍵盤の下ろす深さ、指の扱い方をその時々の曲に合った奏法として伝えます。
時々、大きな音は息を止めたり、小さな音も息を潜めるならいいのですが、これまた止める子がいます。
いずれにしても、イメージを持てることが大事だと思っています。
どれぐらい・・というのは、測量形ではかるものではないし、目に見えるものではないからです。
<小さなお子さんも、おはじめの生徒さんも>
この導入期に、大きな間違いを植え付けないように、はじめが肝心になります。
難しい説明はいりませんし、それが上手く行くかどうかは、その時に重要なことではないのです。
はじめに入った概念を塗り替えることは、難しいし混乱を来たすばかりか二度手間の苦労が伴います。
「イメージを膨らませること」を開花させることが大事な時期なのです。
何事も、最初に出会ったときが肝心だと言うことです。
ブルグミュラー<タランテラ>で強弱を考える
「強弱の考え方」が解ったとして、実際の曲をどのように作っていけばいいのでしょう。
楽譜には、fやsf、mf、mpやpなどさまざまな記号が書かれています。
みなさんよく知ってるブルグミュラー<タランテラ>を見ていきましょう。
この曲を練習している生徒だいるのですが・・
まずの出始めにfがあり、そこからクレッシェンドでsfになります。
この時、たいがいの子たちはfから弾き始め、そこからクレッシェンドでsfにしていきます。
わかります。そう書いてますから、そうしたくなります。
でも、fから弾き始めると次のsfに、音量を増幅させるにはかなり無理がありますし、変化も乏しくなります。
なので、はじめはやはり少ない音量のpから弾き始めるべきです。
では、なぜfから弾き始めるように書いてあるのでしょう。。紛らわしい・・
・・ではなく、このイントロの部分。この部分のイメージを考えてみることが重要かと思います。
「さあ、始まるよ」とか、「緊張感」とかを表してると考えてみてください。
なので、この音楽の始まりは「大きな舞台を想像する」と捉えてみましょう。
<例>生徒たちには、こんな場合お料理に例えることがたくさんあります。
大きなお皿に、おいしいお料理が乗っていて、お料理はいろんな味がありいろんなイロドリがあり…でもお皿の大きさで盛り付け方も違ってくる。
「大きなお皿」・・これがこの曲のここのイメージ。決して「大きな音」ではないと言うこと。
なので、乗せるお料理(右手メロディー)も美しく形を作らないといけない。
そんな風に伝えます。
この「お皿の話」は左手伴奏のときにも例え話として頻繁に使います。
「タランテラ」の弾き方のコツ
<イントロ>最初から8小節まで
まず、イントロは2小節で一つのフレーズ。それがもう一度繰り返されて、4小節が大きなまとまり。
フレーズの考え方・作り方はこちらに書きました。
2小節ごと大きなうねり(クレッシェンド・デクレッシェンド)を強弱で作ります。そして、残り4小節の四分音符。
5小節目から1小節に一音しか無く、休符があるため停滞してしまいがちです。
八分の六拍子のこの曲は、
八分音符3つで一拍と感じ1小節を大きく二拍にとって前へ進めると、停滞感もなくなるしうねりの緊張感も持続できます。
5小節目からの四分音符の長さや音の止め方、音の抜き方で次の8小節から(Aメロ)のイメージを作れます。
あと、出だしの「タタタ タタタ」のリズム刻みが脈拍のように感じておけることが、次からくるAメロBメロCメロの拍感のポイントになります。
イントロは、はじめのうねりで作った大きさのイメージを持続させ、8小節目のフェルマータ(下記参照)の空間で次の音楽の空気を作ります。
<Aメロ>8小節6拍目から16小節まで
Aメロ出始めのアーフタクトのラの音からpで始めるのも、手前のフェルマータで衰退した音量を聴き取って、その中から始まるようにスタートします。(音量のつながりを感じることで音楽の流れや誘導を感じられる)
決してここから、弱く小さな音で別なものが始まる訳ではありません。
ここからも、4小節が一つのフレーズ。
左手は、先ほどのお皿。右手は、スラーがありタッカの軽やかなリズムがあり、小さなお皿や器の中に右手メロディーの強弱をたくさん取り込みます。上行形はクレッシェンド・下行形はデクレッシェンドと考えて問題ないです。
<Bメロ>16小節6拍目から24小節まで
このBメロもタッカのリズムを軽やかに。
<例>このタッカのリズム。タッタのリズムと置き換えても、何だか刻みだけで前に進み辛く、スラーを感じることが少ないために、ラッタと伝えています。ラッにアクセント(下記参照)を感じることと、「タラッ」とイメージを伝えると、前に推進出来ると思います。
20小節目にあるアクセント。
これも、「その音を目立たせて・強調して」という意味があるのですが、そのままその通りに付けると、突出して付いているスラーの表現は出来ません。
<例>このアクセント部分が、このフレーズの中心核で軽やかにleggieroで弾いてきたものが、重みとして集約され次のcresc.に受け継いでいく感じになります。
そして再びAメロが成長して、fのお皿、器になり29小節から左の伴奏も分散和音になり、発展変化でCメロのニ長調に転調していきます。
<Cメロ>33小節から48小節まで
楽譜はのせてませんがCメロは、リズムや数え方が難しく感じるようです。
2小節でひとまとまりの大きなゆったりした4拍子と考えると弾きやすく感じると思います。
fやpの強弱の考え方や作り方
今回は、強弱法の考え方をお伝えしましたので「タランテラ」の弾き方解説は不十分になってしまいましたが、如何だったでしょうか。
楽譜には、いろんな音楽記号やアーティキュレーションなど様々な指示があります。
その記号の意味を、そのままうけとるのではなく作曲者が伝えたいメッセージの意図が書かれてあると理解すると良いのだと思います。
そうなると、作曲者が何を伝えたくて、何を伝えて欲しいのかを読み取ることが大切になってくると思います。
書かれた記号を、見たままに音にするのではなく、いろいろイメージを膨らませ曲全体を眺めてみましょう。
弾くだけの楽しみ以外の、素敵な世界がたくさん詰まっています。
是非、楽しんでピアノを弾くことに取り組んでくださいね。
アーティキュレーションの一部を下記に示します。